コンサートの裏側|客席後方の司令塔「FOH」を解説!

コンサートを観ているとき、客席の中央や後方に、
たくさんの機材とスタッフが集まっているスペースを見かけたことはありませんか?

大きな音響卓や照明卓、複数のモニターが並び、スタッフたちはステージを見ながら、
休むことなく手を動かしているあのスペースのことを、
我々、コンサート制作の現場では「FOH(エフ オー エイチ)」と呼んでいます。

前回の記事では、海外コンサートツアーに同行し、
アーティストの移動や公演を支えるスタッフの役割を紹介しました。

今回はその続編として、スタッフたちが実際のコンサート会場でどのように公演を支えているのか、
客席側に設けられたオペレーションエリア「FOH」を紹介します。

音響スタッフがいる場所という印象が強いFOHですが、
実際には照明、映像、カメラ、進行など、さまざまなテクニカルスタッフが集まる現場も多数あります。

ステージ上で生まれる演奏や演出を、観客が体験するコンサートへと仕上げる場所。
それがFOHです。

FOHは「Front of House」(フロント・オブ・ハウス)の略です。

ホテル業界では「FOH」というとロビー、フロント、レストランなど、お客さまの目に触れる場所や、
直接接客を行う表側のエリアやスタッフの仕事を指し、
劇場やイベント業界では、ロビーや客席など、お客様が利用するエリア全体を指しますが、
コンサート制作の現場で「FOH」という場合は、
主に客席内に設置された音響、照明、映像などのオペレーションエリアを指します。

日本では「PAブース」「PA卓」「音響卓」などと呼ばれることもありますが、
「PAブース」=音響スタッフと音響機材だけが置かれている場所を指す場合もあります。
規模が大きくなるほど、FOHには音響、照明、映像、カメラ、進行など、様々なセクションの担当者が入るため、
プロフェッショナルに近づくほど「FOH」という言葉を使うことになるでしょう、

FOHが客席の中央や後方に設置されるのには、理由があります。
音響チームは、観客が実際に聞いている音に近い環境で、コンサートの音を確認する必要があります。
ステージ上では、楽器の生音、演奏者用のモニタースピーカー、客席用スピーカーなど、さまざまな音が混ざっています。

そのため、ステージ上でアーティストが聞いている音と、客席で観客が聞いている音は同じではありません。

FOHの音響エンジニアは、客席側で音を聞きながら、

・ボーカルがきちんと聞こえているか
・楽器同士のバランスが取れているか
・低音が強すぎないか
・会場に音が響きすぎていないか
・曲の雰囲気に合った音になっているか

といった点を、本番中もリアルタイムで調整しています。

照明や映像、カメラのスタッフにとっても、
ステージ全体とスクリーンを同時に確認できる場所であることが重要です。

FOHは、観客と同じ方向からステージを見ることで、公演全体がどのように見え、
どのように聞こえているかを確認する場所なのです。

FOHには、決まった一つの形がなく、

・小さなライブハウスでは、客席後方に音響卓と照明卓が並び、数人のスタッフで公演全体を支える
・フェスティバルでは、音響、照明、映像、カメラ、進行など、複数の担当者が一つのエリアに集まる
・アリーナ公演では、さらに配信、収録、特殊効果、レーザー、システム管理などのチームが加わり、
 FOH自体が2列3列になり大きな技術エリアになることもあります。

同じ「FOH」という名前でも、ライブハウスでは小さな卓が二つ並ぶだけ、フェスでは複数の部署が集まる島、アリーナでは前後左右に機材が並ぶ大きなコントロールエリアになることがあります。

FOHの大きさや構成は、会場の規模だけでなく、

・出演者の数
・映像演出の有無
・ライブカメラの有無
・配信や収録の有無
・アーティスト側スタッフの人数
・現地スタッフの体制

などによって変わります。

つまりFOHは、会場に最初から同じ形で存在する場所ではありません。

音響と照明のブースが離れている会場もあります。
カメラディレクターが別室に入る場合もあります。

小規模なライブでは、一人のスタッフが複数の役割を兼ねることもあります。
FOHの配置を見ると、その公演がどのような技術体制で作られているのかが少し見えてきます。

FOHにいるスタッフの人数や役割は、公演の規模や内容によって異なります。

ここからは、FOHに入ることの多い主なテクニカルのセクションを紹介します。

FOH音響エンジニア


FOH音響エンジニアは、客席に届ける音を作るスタッフです。
ステージ上のボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボード、再生音源など、さまざまな音が音響卓へ送られてきます。

音響エンジニアは、それぞれの音量や音質を調整し、一つの音楽としてまとめます。

仕事は、規定されたレベルの中で音を大きくしたり、小さくしたりするだけではありません。
たとえば、ボーカルが楽器に埋もれていないか、ギターとキーボードの音がぶつかっていないか、
低音が会場内で膨らみすぎていないかなどを確認します。

また、リバーブやディレイといったエフェクトを使い、曲の雰囲気やアーティストの世界観に合った音を作ることもあります。

海外ツアーでは、アーティスト専属のFOHエンジニアが同行する場合があります。
専属エンジニアは、アーティストの楽曲や理想とするサウンドをよく理解しています。
現地の音響スタッフや会場スタッフと協力しながら、その会場に合った音へ調整していきます。

システムエンジニア

大規模な公演では、FOH音響エンジニアとは別に、システムエンジニアが入ることがあります。

FOH音響エンジニアが曲ごとの音作りを担当するのに対し、システムエンジニアは会場全体のスピーカーシステムを管理します。

会場の前方、後方、左右、二階席などで音の聞こえ方に大きな差が出ないよう、スピーカーの向き、音量、タイミングなどを調整します。

客席の場所によって音が遅れて聞こえたり、特定の場所だけ低音が強くなったりしないよう、会場全体を一つの音響システムとして整える役割です。

照明オペレーター

照明オペレーターは、ステージ照明を操作するスタッフです。
曲や演出に合わせて、照明の色、明るさ、向き、動き、点灯のタイミングをコントロールします。

照明には、アーティストを明るく見せるだけでなく、曲の空気を作る役割があります。
静かな曲では光を絞り、激しい曲では照明を大きく動かす。
サビで一気に客席まで明るくしたり、アーティストの登場に合わせて照明を切り替えたりすることもあります。
大規模なツアーでは、バンドに照明チームが帯同し、あらかじめ曲ごとに照明データをプログラムし、それを再現する照明セットを各地で作り上げていく事が多くなります。

一方、フェスティバルや出演時間の短いイベント、ショーケースなどでは、
現地の照明オペレーターがその場で演奏を見ながら操作することもあります。

音楽を耳で聞きながら、ステージの動きも目で追う。
照明オペレーターには、技術だけでなく、音楽の流れを読む力も求められます。

映像オペレーター

映像オペレーターは、ステージ上のLEDスクリーンや会場内のモニターへ表示する映像を操作します。

コンサートでは、楽曲に合わせた演出映像のほか、

・アーティストロゴ
・歌詞
・プロフィール画像
・イベントロゴ
・スポンサー映像
・オープニング映像
・エンディング映像

など、さまざまな素材が使用されます。

映像オペレーターは、進行や楽曲に合わせて、それらの映像を正しいタイミングで再生、停止、切り替えます。
映像に音声が含まれている場合は、音響スタッフとの連携も必要です。

たとえば、オープニング映像の音を映像データから再生する場合、映像オペレーターが再生を始めるのと同時に、音響エンジニアが客席へ音を出します。

数秒のずれでも、観客が受ける印象は変わります。

そのため、音響と映像の間では、事前の確認と本番中の連携が欠かせません。

カメラディレクター

大型スクリーンにライブカメラの映像を映す公演では、FOHにカメラディレクターが入ることがあります。

会場内には複数のカメラが設置されており、それぞれ異なる角度からステージを撮影しています。
カメラディレクターは、それらの映像をモニターで確認しながら、どのカメラの映像をスクリーンに出すかを判断します。

ボーカルが歌っている場面ではボーカルのアップ。
ギターソロではギタリスト。
観客が盛り上がっている場面では、客席の映像。

ステージ上の動きや楽曲の展開を見ながら、数秒単位で映像を切り替えていきます。

観客がスクリーンで見ているライブ映像は、
カメラマンだけでなく、その映像を選ぶディレクターによって組み立て、その場でスウィッチングされています。

ショーコーラー・進行担当

フェスティバル、授賞式、企業イベントなど、出演者や演出が多い公演では、
ショーコーラーや進行担当者がFOHに入ることがあります。

ショーコーラーは、公演全体の進行に合わせて、各スタッフへ合図を出します。

「客席照明を暗くする」
「オープニング映像をスタートする」
「MCがステージへ登場する」
「次のアーティストをスタンバイさせる」
「エンディング映像を再生する」
といったキューを、音響、照明、映像、カメラ、ステージスタッフへ伝えます。

それぞれのスタッフが優れた技術を持っていても、動くタイミングがそろっていなければ、一つの公演にはなりません。
ショーコーラーは、別々の仕事を一つの時間軸へまとめる交通整理役です。

配信・収録スタッフ

ライブ配信や映像収録を行う公演では、FOHまたはその周辺に配信・収録チームが入ることがあります。
会場内のスクリーンに映す映像と、配信で視聴者が見る映像は、同じとは限りません。

配信用には、カメラ映像、音声、字幕、ロゴ、CMなどを別に組み立てる場合があります。
そのため、大規模な公演では、会場映像チームと配信チームが別々に配置されることもあります。

その他、公演により特殊効果・レーザー etc色んなセクションが追加になることもあります。

海外コンサートの現場では、FOHにいるスタッフを大きく「乗り込み」と「ローカル」に分けて呼ぶことがあります。

乗り込みスタッフ

「乗り込み」とは、アーティストやツアーと一緒に会場へ入るスタッフのことです。
英語では touring crew、visiting crew、artist crew などと呼ばれます。

たとえば、アーティスト専属のFOH音響エンジニア、照明ディレクター、映像スタッフ、ツアーマネージャーなどが該当します。

乗り込みスタッフは、楽曲、演出、アーティストの希望、ツアー全体の流れをよく理解しています。

毎回異なる会場でも、アーティストが求めるクオリティを再現することが主な役割です。

ローカルスタッフ

「ローカル」とは、その国や都市、会場側で公演を支える現地スタッフのことです。

英語では local crew、house crew、venue crew などと呼ばれます。

会場の音響システムや照明設備、電源、搬入口、館内ルールなどを熟知しているのがローカルスタッフです。

海外から来た乗り込みスタッフに対して、

・この会場ではどの機材が使えるか
・どこから電源を取るか
・どの時間まで音を出せるか
・機材をどこへ搬入するか
・客席内にFOHをどの大きさで作れるか

といった情報を提供し、実際の設営と運用を支えます。

乗り込みとローカルは、どのように仕事を分ける?

海外ツアーでは、乗り込みスタッフがすべての機材を持ってくるわけではありません。
多くの場合、会場や現地レンタル会社が、音響卓、照明卓、スピーカー、照明機材、LEDスクリーンなどを用意します。

乗り込みスタッフは、それらの機材を使いながら、アーティスト側の演出や音を作ります。

たとえばFOH音響では、

・乗り込みのFOHエンジニアがミックスを担当する
・ローカルのシステムエンジニアが会場全体のスピーカーを管理する
・ローカルスタッフが機材接続やトラブル対応を支える

という分担になることがあります。

照明では、

・乗り込みの照明ディレクターが演出やキューを決める
・ローカルの照明オペレーターが会場設備の準備を行う
・両者で照明データや機材の互換性を確認する

といった形です。

映像でも、乗り込み側が映像素材や演出内容を持ち込み、
ローカル側が会場のLEDスクリーンや再生システムを管理することがあります。

乗り込みがアーティストを知り、ローカルが会場を知っている。
両者がそれぞれの情報を持ち寄ることで、限られた時間の中でも公演を成立させることができます。

本番中のFOHを一曲分だけのぞいてみる

観客から見ると、アーティストの登場から演奏開始までは、自然に流れているように見えますが、
オープニング映像のあとにアーティストが登場する公演では、FOHでは次のような流れが起きています。

1.ステージ袖から「アーティスト準備OK」の連絡が入る

2.ショーコーラーが各部署へライブ開始のスタンバイを伝える

3.客席照明が暗くなる

4.映像オペレーターがオープニング映像を再生する

5.音響エンジニアが映像の音声を客席へ出す

6.映像の終了に合わせてステージ照明が切り替わる

7.ステージスタッフがアーティストへ登場の合図を出す

8.アーティストが登場し、演奏が始まる

9.音響、照明、映像、カメラが同時に動き始める

観客にとっては数十秒の演出ですが、その裏側では複数のスタッフが同じタイミングを共有し、
それぞれのセクションの仕事をスタートします。
誰か一人が数秒早くても、数秒遅くても、演出の印象は変わってしまいます。

自然に見える進行ほど、事前の準備、度重なるリハーサル、そして本番中の連携によって支えられています。

FOHとステージ袖は常につながっている

コンサートを支えているのは、FOHのスタッフだけではありません。

ステージ袖にも、アーティストと公演を支えるスタッフがおり、
FOHとステージ袖は、インカムや無線を使って、常に連絡を取り合っています。
こちらの袖では何が起きているのかは、これまた長くなるのでまた次の機会に!

締め:FOHは、観客から見えるもう一つの舞台

次にコンサートへ行ったときは、開演前や終演後に、客席の中央や後方を少し見渡してみてください。

音響卓や照明卓、モニターに囲まれ、ステージを見つめているスタッフがいるかもしれません。
そのFOHは、小さなPA卓だけかもしれません。
あるいは、音響、照明、映像、カメラ、進行、配信など、何十人ものスタッフが集まる大きなエリアかもしれません。アーティストと一緒に旅をする乗り込みスタッフと、その土地や会場を熟知したローカルスタッフが並んでいることもあります。

観客が音楽に集中している間も、FOHでは音、光、映像、進行が絶えず調整されています。
ステージ上で生まれたパフォーマンスを、会場全体へ届けること。

そのために、FOHとステージ袖、乗り込みスタッフとローカルスタッフが連携し、一つの公演を作っています。

表舞台からは見えにくいものの、FOHは観客と同じ空間にある仕事場です。
ライブ中に後ろを振り返ったら、そこにはもう一つの舞台が広がっているかもしれません。


Triplegunsの記事では、海外コンサート情報を配信しています。

知ってそうで知らないコンサート業界のあれこれを記事にしていますので、
是非他のブログもご覧くださいね。

私達Triplegunsは、イギリス・シンガポール・日本の3拠点から日本人アーティストの海外公演をはじめ、
海外ツアー、コンサート、イベント、展示会の制作・運営をサポートしています。

アジアツアー、ヨーロッパ・アメリカツアーをはじめ海外単独公演や
海外イベント出演・制作に関するご相談は、Tripleguns公式サイトよりお問い合わせください。